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太陽が沈まない国ルティシア、と聞いてたけど、普通に太陽は沈むし、砂ばっかりだし、冬なのに暑いし、姫君がたくさんいすぎで、どれがどれだかさっぱりわからん…。
昨夜の宴だけで十分だったのに、今日もやたらと、琴の上手ななんたら姫、笛の得意ななんたら姫、とやらを紹介され続けるのに、カイは飽きてしまい、こっそり逃げ出してきた。
琴も笛も、本当に上手ならちゃんと聞くのだが、なんだか、あんまりうまくない。しかも、大概の姫君は、ぼんやりカイに見惚れて、演奏がちゃんとできない。
自分の顔は、どうやら女の子の気にいりやすい顔らしいぐらいの自覚はおぼろげながら育ち始めていたが、カイはといえば、まだまだ、大人しい姫君と遊ぶより、海賊仲間の少年達と海で遊ぶほうが楽しい。
「にしても、広いなー…」
ルティシア宮殿の建築は、カイの育ったレンティア地方とはまったく違っていて、それは、似たような顔の姫君ばかり見ているよりは、カイの好奇心を誘った。
壮大で、流麗。
何処かで必ずカーブが入って丸みを帯び、女性的な優しい印象を与える宮殿。
けれど、こんなに太陽に照らされた宮殿なのに、何処か、暗い印象を与えるのは何故なん だろう。
古い宮殿にありがちな、影のようなものを、そこかしこの隅に感じる。
「…ね、イシュルも歌ってみて?」
「えー? こう…?」
回廊を抜けて、カイが庭園に迷い込むと、花の影で、柔らかな声が聞こえた。
女の声と、甘えるような子供の声が、たどたどしく重なり合うようにして歌を紡ぐ。
海でよく聞く甘い恋歌だ。
どうして、こんなところで、こんな歌を聴くんだろう…?
ルティシアの宮殿で聞くような歌じゃないと想うが…。
「…だあれ? ユキ? …もう帰らなきゃダメ…?」
カイの気配に気づいたように、歌っていた金髪の子供が振り返る。
「……?」
カイを見つめて、きょとん、と子供は、琥珀色の瞳を見張った。
「…だあれ? まあ、綺麗な男の子…」
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