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柔らかい男の声がする。優しい指が、愛しげにイシュルの前髪を撫でる。
「…なんで、カイ、いるの?」
どうして? とイシュルは大きく瞳を見開く。
幾度も見てた夢の中のやんちゃで可愛らしいカイと違う。
いま裸の腕にイシュルを抱いているのは、美貌の大人の男だ。あまり可愛くない。
「……。イシュルが一人で寝るのヤダって言ったんだろ」
「…うそ。そんなこと言わない」
ふるふるイシュルは首を振る。そんな記憶はまったくない。
「言ったよ。酔っ払って、一人で寝るのヤダ、て甘えてた」
「うそ。…甘えたり、しない」
母親以外の誰かに甘えることなんてイシュルは知らない。
「…酔いが覚めると、ご機嫌斜めなんだな。酔っ払ってたときは、すげぇ甘えてたし、オレのこと大好きって言ってくれて、めちゃめちゃ可愛かったのに…」
物凄く残念そうに、カイが言う。
「…そんなこと言ってない」
イシュルがカイのことを好きなのはホントのことだけど、いまのカイは強姦魔で人攫いなうえに、勝手ばかり言うから、嫌いだ。大好きなことなんて絶対内緒だ。
「言ったよ。カイ大好きなのに、どうして意地悪ばっかりするの、てゴネてた。…どうしてちゃんと話してくれないの、て」
「言ってな…!」
夢の中では嘘をつけないらしい。
閉じ込められた船室で(実際にはそこに閉じ込められてると思っていたのはイシュルだけで、人質というより、カイの友人扱いのイシュルが船内を散歩することは自由だとユウヤに教えられた)、カイに教えられた初めての身体の熱を持て余しながら、浚われたことよりも犯されたことよりも、何よりもカイがちゃんと話をしてくれないことを哀しんでた。
カイに逢ったら、たくさんしたい話があったのに。
カイに、たくさん聞いて欲しいことがあったのに。
大切な話も、大切じゃない話も、何も聞いてくれない。
恋人のようなキスとか、俄かには信じられないようなことをされたけれど、少しもイシュルとちゃんと話をしてくれない、どうして、と恨んでた。
「言った。だから、昨夜、酔っぱらいのイシュルと約束したんだ」
「約束?」
イシュルの額にカイのキスが降りてくる。勝手にキスしないで、とイシュルはカイの唇に手を伸ばす。
「意地悪しないから、ちゃんとイシュルの話を聞くから、そんな鬼みたいにオレを嫌わないでくれ、て」
「……?」
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