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「…な、に…?」
「オレが順序を間違えたのがよくないと思うんだが、オレがイシュルを好きで、イシュルもオレを好きなら、こうしてるのは全然おかしくない」
優しい腕に抱きしめられながら、呑気そうな声で、そんなことを言われていると、なんとなくそういうものなんだろうかと納得しそうになるところが怖い。
「…同性愛は罪だよ、カイ。知らないの? リタの天国に行けなくなるよ」
強姦を主張しても、話を曲げられてしまうので、神の教えで文句を言おうと戦法を変えた。
「そんなもんあれだろ? リタの大聖堂に幾らか寄付でもしてやれば、速攻、その場で、ご機嫌で免罪符発行してくれんだろ?」
くすくす、イシュルの金髪にキスしてカイは笑う。
「だいたい、そんなこと言い出したら、リアンの坊主達の大半がリタの天国に行けねーんじゃねーか? イシュルを待ちかねてるドーリアの爺さんだってそうだし、オレだって、子供のころ、リアンで随分言い寄られたぞ? いまでも諦めねー坊主もいるくらいだ」
世慣れた海賊王子殿に混ぜっ返されては、世間知らずのイシュルでは到底言い返せない。
「…じゃ、なんで…」
カイに同性愛の傾向はないとトゥールも言っていた。
「ん?」
「カイは男が好きな訳じゃない癖に、なんで、イシュルにはこんなことするの? やっぱり…意地悪?」
なんだか哀しい。
夢のなかでは、イシュルは子供のカイからとても大切にされていて、ふわふわして、あたたかくて、幸せだった気がするのに。
ルティシアに帰りたい。
カイはイシュルを大切にしてるのだと誇らしげに話す女官達の声が聞きたい。
「おまえは、なんで、オレの話をまるきり聞いてないんだ。…オレはイシュルが好きだから、恋してるから、抱きたいんだて、昨日から、ずっと、そう言ってるだろう?」
「どこが、恋…? 恋文なん交わしてないし、ダンスもしてない…」
イシュルは恋には詳しくないが、宮廷での恋は、大概そんな始まり方だ。
いきなり浚ったり犯したりしない。
そもそも、そんなの恋じゃなくて、犯罪だ。
「なんでそのふたつが必要不可欠なんだ…? そんなこと言うなら、オレはイシュルと手紙は五年も交わしてたし、贈り物も随分贈ったがな」
「あれは…そんなのじゃない…。大事な…大事な…友達の手紙。…子供のカイは…、いまのカイみたいに…夜伽を無理強いするような人とは違うから…」
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