第1章 砂漠の国

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 カイも勝手だが、イシュルもわりと勝手なことに、イシュルは自分では気づかない。 「人の人格を勝手に年代で分けるな。…変わらないよ。ちびのオレがその指輪を贈ったみたいに、五年ぶりに逢っても、オレはイシュルに惹かれたんだよ」  そんなことを言っているカイは、オレのものなんだからオレの言うことを聞け、と言ってた横暴な昨日のカイよりは、まだ話ができる人に見えるけれど…。 「嘘…。オレが浚ってきたんだから、オレの言うこと聞けって言った…。イシュルのこと、モノみたいに言った…、イシュルの友達…カイ…だけだったのに…」  思い出すだけでも哀しい。 イシュルとて子供ではないから、その言葉自体は絵本でも出てきそうな海賊の言葉として認識できるが、それを見知らぬ海賊の男からではなく、カイから言われたことがショックだったのだ。 「ずっと、そう思ってたの、イシュルだけだったんだって…」  言葉にしたら、涙がとまらなくなってきた。 それも芝居のような、枕を涙で濡らすなどという美しいレベルの涙ではなくて、子供みたいに、しゃくりあげてもとまらないほど。 「ちょ…、泣くなって。オレだって、イシュルのこと大事な友達だって思ってるよ」 「うそ、つき…、嫌い、カイなんか、きら…」 「カイッ!」  今朝初めて耳にするカイ以外の、けたたましい声に、泣いてたイシュルが驚くと、太っちょのオレンジのオウムが美貌の海賊をキックしていた。 「いて! ルシエル、つつくな!」 「ナンデ、朝から、イシュルは泣イテルノダ! ルシエル、寝てる間に、何シタノダ!」  ぷんぷん、起きぬけのルシエルはご立腹だ。  そう言えば、静かだと想っていたら、傍らで主達がモメてるのもなんのその、ルシエルは、いまのいままで気持ちよく眠っていたようだ。 「ルシエール…」 「イシュル、カイに、イジメられたのか? また強姦サレタノカ?」  可哀想、イシュル可哀想、と、太っちょのオウムが、せわしく翼を動かしている。笑う場面ではないと思うが、どうにもルシエルの仕草がコミカルで、ちょっとおかしい。 「強姦じゃないつーの。オレは誘われたんだって…」 「誘ってない!」   イテテ、つつかれて痛がるカイを心配そうに見てしまったが、誘ったと言われて、イシュルはひどく気を悪くして否定した。 「誘ってナイ、言ってるゾ! カイ、嘘ツキは泥棒の始まりだ!」
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