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「嘘じゃないつーの。あーもーうるせー。…イシュル、両方じゃダメなのか?」
「……?」
話が余計ややこしくなるから、おまえちょっと黙ってろ、とルシエルを長い指で宥めながら、カイがイシュルにむけて言葉を紡ぐ。
「友達で、恋人にはなれないのか? …純粋な友達じゃなきゃ嫌なのか?」
「……?」
カイの言葉に、裸のまま、イシュルは小首を傾げる。
友達で恋人?
そんなの一緒にできることなんだろうか?
「イシュルはべつに、ドーリア枢機卿に惚れてる訳でもないんだろう?」
「それは…そうだけど」
「あんな爺さんの愛人になるより、オレの恋人になるほうが、ぜってー人生楽しいと思うぞ?」
「何を言って…」
気のせいか、昨日の昼間、トゥールにも似たようなことを言われたような。
「アイジン? イシュル、カイの愛人になるのか?」
愛人なら昨日覚えた、とルシエルがカイの話に乗ってくる。
「愛人じゃなくて、恋人だ、ルシエル」
「ン? ソレはどー違うんダ、カイ?」
「全然違うさ。愛人なら何人もいるだろうけど、恋人はたった一人だ」
「ふーん。ソウなのかー?」
たった一人、という言葉に、イシュルの薄茶の瞳は揺れたけれど、ルシエルにはよく意味がわからないらしく、感動が薄い。
「そうさ。イシュルがオレの恋人になったら、ルシエルもずっとイシュルといられるぞ?」
「それはイイ! デハ、イシュルはカイの恋人にナルとイイ!」
愛人も恋人も違いはよくわからないらしかったが、ずっとイシュルといられる、という言葉には、ルシエルも大変喜んだ。
「…カイ、悪ふざけを」
そんな言葉で、唯一の味方のルシエルを奪わないで欲しい…とイシュルは不満に思う。
「ふざけてなんかいないさ。最初の夜に、イシュルに無理強いしたことは詫びる。…怖い思いをさせて、悪かった」
まっすぐイシュルを見つめてくる、レンティアの海賊王子殿の迷いのない瞳。
「……」
「オレの言うことを聞け、と言ったのも、イシュルの意志がどうでもいいってわけじゃないんだ。オレの大事な者を、危ないところにやりたくないだけなんだ。…それがそんなに、イシュルの心を傷つけるとは思わなかったんだ」
「……、」
少しも話を聞いてくれない、と想っていたカイが、ちゃんと話をしてくれたので、イシュルは戸惑う。
「泣かせてごめんな。ずっと、いちばん優しい気持ちで、大事に想っててくれてたんだよな」
「……」
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