第1章 砂漠の国

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「トメタヨー! ルシエル、トメタケド! カイ強姦シテナイッテ! 求愛ッテ!」 「人、それを言いくるめられたという」 「言イクルメ? クルメ? ダッテ! ダッテ、カイトイシュル、昨夜カラ、仲良サソウダッタカラ!」 「それは言えてるね、このお二人は…、昨夜も甲板で、なんか甘い雰囲気にアテられたーて倒れてたのいたし。皇子様、ゴメンね。昨日もカイに文句言ったんだけど、効果なかったみたいだね」 「…あの、でも」  昨日と違い、ほんのつい先程まで、カイの腕の中で泣かされていたイシュルは、レオナルドの顔を見上げるのさえ、面映ゆい。 「ひとつだけ、いいことがありました」 「なに?」 「カイの気紛れだと思いますが、人質としての身代金の要求はやめてくれると、父に私の遊学許可を求めてくれると…」  実際問題、状況は何も変わっていないが、イシュルのなかで、それだと、気持ちが大分違う。 「イシュルを、お嫁に下サイと手紙を書くンダ!」 「違うよ、ルシエル」 「おやおや。その様子じゃ、お姫様は、人質として攫われてるのが御不快だっただけで、カイが嫌な訳でも、レンティアが嫌な訳でもないんだ?」 「そんな願いを父が聞くかどうかはともかく…」  最初のドーリア枢機卿との話はどうなるんだろうと思うから。 「…カイの振舞いに不満はたくさんありますが、…友の暮らす海賊王国レンティアに行くのは、子供の頃からの夢でした」 「そりゃーよかった」 「何がですか?」 「皇子様、ずっと手紙で船に乗りたい、レンティアに行きたいって手紙くれてたのに、現実には、船も海もオレもみんな嫌なのか? て昨日、カイの奴、えらくガッカリしてたから」 「船も海も…初めて見るものばかりで、感動は…してます…、カイは…強姦魔じゃなければ、大切な友達です」  水の上を優雅に渡る、海賊王国の船。  楽しそうに船上で会話し、働く、異国の少年達。  船を操る技術の違いか、船体そのものの違いなのか、イシュルが浚われる前に乗っていたルティシアの船より、こちらの船の方がずっと揺れが少なく、海に慣れないイシュルの身体にも負担はかからなかった。  レンティアになんかいかない、とカイに憎まれ口を聞いたけれど、本当は、イシュルだって、伝説の海賊王国レンティアに行ってみたい。 「カイ、イシュル、好キー、欲シイー」 「ルシエール」
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