第1章 砂漠の国

95/225
前へ
/225ページ
次へ
 イシュルが好きだ、欲しい、オレのものになれよ、とカイがイシュルを抱きながら言っていたせいか、ルシエルがそれを気にいって繰り返している。 「ルシエルもイシュル好きー。好きー。お嫁にオイデー。レンティアにオイデヨー」 「…いーんじゃない? レンティアおもしろいよ? どーしてもリアンで御稚児さんやりたいの? 色惚けジジィの稚児からはじめて、末は枢機卿か法王でも狙ってんの?」  お薬遣う程でもないから、ハーブティでも飲む? と薬草茶を処方してくれたレオナルドと差し向かいでお茶を飲む。 「まさか…」 「そーだよねぇ。貧乏貴族の美貌の息子ぐらいなら、そのセンもありだけど、大国ルティシアの皇子殿下だもんねぇ。そこまでガッついてないよねぇ」 「でも、何もないところから初めて…、現世の神の代理人の位へと登り詰める方々は尊敬しています。リアンでの出世には、血も身分も関わりがないと聞きます」  貧しい生まれの少年も、貴族の子息も、王族の血をひく者も、等しく、おなじ白い僧衣を纏って、机を並べて学ぶという神の国リアン。 ドーリア枢機卿の男妾にされるという予定がないのであれば、リアンで学ぶこともまた得難い体験と楽しみにも思えるのだが。 「んー、まあ、そりゃちょっと幻想かなあ。実際には、リアン公国でもコネと金も横行してるよ。たまにはいるけどねぇ、ホントにびっくりするくらい神の使いみたいな人も。…そんな人は心傷めることが多くて、苦労するよね。悪い奴とか全然心傷めないから」 「………」 「どうかした?」 「…あ。いえ。…あまり…、こういう話を、同い年くらいの人としたことがなくて」  イシュルに学問を教えてくれたルティシアの教師達と、カイやレオナルドの物の考え方はだいぶ違う。それがカイとレオナルド二人に限ったことなのか、レンティアの人全般なのかはわからないが。    「ああ、悪い。オレの言うこと変ってる? オレよく皆に変だって言われるんだよねー」 「いえ、レオナルドさんは、おもしろい…です。話していて、とても」  おもしろい、では褒めているように聞こえなかっただろうか、とイシュルは長い睫毛を動かす。 「皇子様もおもしろいよ? なーんも知らない深窓のお姫様みたなカオしてんのに、意外といろんなこと知ってるから。トゥールに聞いたけど、皇子様、いつかカイの船に乗る約束で、海や船のことも勉強もしてたんでしょ?」
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2408人が本棚に入れています
本棚に追加