「お心遣いありがとうございます。…少し、船室で、休みます」
僧にかまわれるのに少し疲れて、逃げるように、イシュルは船室へと足をむけた。
二か月ほど前、イシュルの母は、死んだ。
死に顔は、少女のようだった。
近ごろでは、話がちゃんと通じることが少なくなってしまい、ずっと夢を見ているような状態が続いていたので、死を嘆く気持ちよりも、やっと母は楽になれたのでは、という気持ちが強い。
母が亡くなり、茫然としているイシュルに、父の皇帝から、リアン行きの話がもたらされた。
何でも、リアンで大変、影響力のあるドーリア枢機卿が、ルティシアを訪れたときに見かけたイシュルを気にいったとかで、利発な皇子に、ぜひ神の都リアンにおいで頂いて、学んで頂きたいと。
それだけ聞くと、そう悪い話ではないように思うのだが、世間に詳しい女官達の噂話を要約すれば、ドーリア枢機卿というのは、有名な男色家で、美しい少年に目が無いと。
そんな男に、美しい皇子を預けるなど、皇帝陛下の気がしれないと。
…けれど、父なる皇帝の意志は絶対で、イシュルに否やと言える訳もなく。
母の死の衝撃も覚めやらぬ間に、リアンへの旅支度が始められた。
「生まれて初めての旅なのに…憂鬱でいるのはよくない」
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