16 好きということ

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「未波、俺に半年くれないか」 辻上の口から飛び出したこの言葉は、 唐突を通り越し、一瞬、未波の中で意味すら不明にした。 それは、辻上がメール室での仕事を一週間と残した頃。 確かにこの日は、デート中も、いつも以上に口数が少ないと思ってはいた。 だが、いきなり投げられたこんな言葉に、未波が戸惑うのも当然のこと。 「どういう意味?」 桜は終わったが、デート先の公園には、色とりどりの花が美しく咲いている。 しかし辻上は、余程に言い難いのか そんな景色など目に入らぬように真っ直ぐ正面を向いて歩いたまま、 いつも以上に訥々と話しだした。 「今度の仕事で俺がやるのは、病理検査の検体標本を作る作業だ」 そう切り出した彼は、作業自体は今までも実習で学んできたという。 しかし、それが仕事となるからには、限られた量の検体を扱うのだから、 もちろん失敗は基本的に許されないのが現実だと続ける。
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