16 好きということ

4/20
前へ
/37ページ
次へ
「さすがに、新卒に初めから完璧は求めないだろう。 けど、それに甘えられる訳でもない」 それだけに、緊張も集中も、今までとは比べものにならないだろう。 そう言って、辻上は少しだけ言葉を切った。 そして、更に言い難そうに低い声になり、ボソリと言う。 「今度の仕事に移ってからしばらく、仕事に集中したいんだ」 だが未波は、すぐに言葉が返せなかった。 ひどくたくさんの事が、一気に、彼女の頭の中を駆け巡っていた。 新しい職場で、新しい仕事に就くにあたって、 慣れるまでは、色々大変だろうということは未波にも想像はつく。 だが、半年くれということは、その間は全く会えないということなのか?  電話やメールもできないのだろうか。 そもそも、なぜ半年もの長い間が必要なのか。 何より、新しい職場や仕事に慣れない間は、 自分の存在は、彼にとって癒しにもなれないということだろうか。 胸の中で芽生えた小さな自信は、惨めなほどに萎れ果てる。 それどころか、疑問と不安でいっぱいになり、 何を言葉にすればいいのか分からなくなる。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加