秘密をかけた賭け

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「それではこれで会議を終了する。来週一人1つプレゼンをしてもらうから、案が浮かんだら資料を作ってまとめておくように。」 企画部の部長である片倉は若干せり出た腹を気にするそぶりを見せながら会議室を後にした。他の社員も三々五々企画部のオフィスへ引き上げていく。 桜木も自分のデスクへ帰ろうとしたその時だった。 「桜木さん」 耳に心地よいテノールが後ろから桜木の名を呼んだ。女子社員ならばきっとそれだけで満面の笑みを見せ振り向くのだろうが、生憎と桜木の名を呼んだのは桜木が最も苦手とする人物だ。満面の笑みどころか、眉間に深いシワが刻み込まれそうになるのを抑え込むので精一杯だ。 「どうかしたのか、藤堂?」 同僚になってからも藤堂が桜木のことをさん付けで呼ぶことは変わらなかった。しかし桜木にしてみれば意識したくもない年齢の差を見せつけられているかのようで、腹立たしいだけなのだが。 「この際聞きますけど、俺あなたの気に障るようなことしましたか?」 突然そんなことを言われて桜木の頭の中は真っ白になった。 いつものようにそんなことないと否定してしまえば済む話なのに今に限ってなぜかそれが出来なかった。 「え…。ど、どうしてそんなこと…」 「最近の桜木さんの態度がどこか変だとは思ってはいたんですけど、俺には残念ながら理由が思いつかなかったので、聞いてみたまでです。違うのならいつもみたいに否定してください」 早く否定しろ!と脳内では必死に命令が下されるものの、肝心の口が全く動く気配がない。 そうしている間にも藤堂はなぜか桜木との間合いを詰めようとする。桜木は藤堂のただならぬ雰囲気に気圧されたように後ずさる。 やがて無情にも桜木の背は会議室の壁に当たってしまった。これで退路は無くなった。 後ろは壁、目の前には自分よりも体格のいい男。身長の差はそんなにないはずなのにどうしてこうも威圧感を感じているのだろうか。 壁に背中を預けていなければ膝が笑って、その場に座り込んでしまいそうだった。
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