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すぐに終ると思ったがその予想は見事に外れた。人々は馴れたパンより他の町から来た得意な、普段は食べる機会があまりない物を好んだ。結局、パンを全部売る事も出来ず、周りはすっかり黒くなった。月は雲のせいで隠れてる。しょうがなく灯火をつけて手に持つ。光はちょっと弱いけど無いよりましだと思ってそのまま歩き出す。普通は利用しない森の方へ入る。ここの道はちょっと険しいだが孤児園までの近道でもある。ここを利用すると15分位節約出来る。昼にもそうだけも夜にはもっと危ないからここは避けなさい、といつもママが言うけど今日はいつもより遅くなったため、早く戻って休みたい。時々忙しい時には使ってるので大丈夫だと思った。だからそこで滑ってしまうとは思わなかった。
「わああっ!!!」
大きな声が出てしまう。誰も無くて良かった、と思った瞬間、自分以外の声が聞こえた。その声は笑ってるようだった。音がする方へと灯を照らしてみる。よく見るとそこにも結構明るい灯を持っている。
「あ、ごめん」
相手が短く誤る。あの灯で自分の姿を見たのだろう。大丈夫です、と答えてゆっくり相手を観た。長い黒髪が見える。周りが暗いせいで良くは見えないが誰が見ても驚くほど美しい人に違いないと思う。
ゼニンよりちょっと年上に見えるその女はこちらに近づいて来た。二人が持ってる灯のおかげで近くまで来た相手の顔が良く見えた。明るい黄金のような瞳を見た瞬間、彼女を除いた世界がぐにゃりと形を崩す。そして崩れたそれがまた新しく構築する。前より輝く、前より奇麗な世界だ。まさか自分が誰かに一目惚れするとは。
「笑ってごめん。君、名前は?」
突然の質問に慌てて答える。
「あ、いえ…。僕はゼニン、です。貴女は?」
ゼニンの質問にその人はちょっと悩むような表情を作る。すぐまた明るい顔をして答える。
「お…、いや、私の事はアシャ、と呼んで」
「ではアシャ、こんな遅い時間に一人でこんなところにいてもいいんですか?」
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