同級生の贈り物

2/2
前へ
/2ページ
次へ
『シュッ、シュッ、シュッ』 『悪いな北条』 『いや九条。クリスマスの贈り物に何か欲しいか聞いたのは、自分の方だからな』 クリスマスが近付いて来る冬の教室で、同級生でボクシング部に所属をしている友人の北条から、何か欲しい物があるかと尋ねられたので。以前からして欲しいと思っていた事を、北条にしてもらう事にした。 『シュッ、シュッ、シュッ』 『やはり鍛えてある十代の男子の肉体美は素晴らしいな。以前から北条の鍛えた裸体を絵に描いてみたいと考えていたからな』 私と北条は同じ私立学校に通う同級生の友人だが、お互いに恋愛感情は一切無い。北条には付き合っている女性が居るし、私は色恋沙汰には関心が無いからだ。 『シュッ、シュッ、シュッ』 『九条は絵を描く時には、本当に真剣な表情をするんだな』 放課後の鍵をかけた美術部の部室の中で、裸体で私の絵のモデルとなってくれている北条が、素直な感情を話したので。 『ボクシングの試合をしている時の北条も、凛々しい真剣な表情を浮かべて試合に挑んでいるがな。私の芸術家としての創作意欲を刺激する、素晴らしい画材だと以前から感じているな』 鍵をかけた部屋の中で、同い年の裸体の男子生徒と二人きりで話しているが。友人関係にある私と北条の間には、打ち解けた雰囲気があり緊張感は存在していない。 『シュッ、シュッ、シュッ』 『ふむ?。良い感じだな。見てもらえるか北条』 『判った九条』 鍛え上げられた身体を持つ北条が、裸体のまま私の方に歩いて来て。私の隣に立ち作品を眺めると。 『凄いな…』 カンバスの前で椅子に座っている私は、立っている北条の事を眼鏡越しに見上げて。 『鏡の前で、自分の身体の筋肉の付き方とかを確認はしないのか?』 私の疑問に対して、北条は苦笑を浮かべて。 『いや、そういう意味じゃない九条。九条の絵が凄いと思っただけさ』 私は眼鏡の位置を直しながら。 『一人の芸術家として、その賛辞は嬉しく思う北条』 私と北条の男女二人は、殆んど肌が触れ合う程の近距離に居たが。それ以上は何も起こらなかった。 『今日の事は、描いた作品と共に大切な思い出として忘れないと思う』 モデルを終えた北条は、服を着ながら頷いて。 『自分も忘れないさ、九条』 クリスマス前の冬の季節の、素敵な思い出が出来た一日だった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加