32人が本棚に入れています
本棚に追加
/215ページ
レスター道場に着くとすぐにハンスと手合わせをすることになった。レスターはまた不在だった。
騎士戦になってからこっちまともに顔を合わせていない。
二人は防具もつけず、木刀を構える。
クロードはロベールの戦術を真似した。
どんなルールであってもロベールはいつも同じ試合運びをする。
防具試合でも、総甲冑試合でも。
開始直後は高身長を活用して、上段から降り下ろす。まともに食らえば剣を落とす。大抵の者は受けずにかわして下がる。そこを体格の重みで押し込むように壁際や場外へと追い立てる。
ロベールがするとまるで猛牛のようである。
ハンスの方がクロードよりいくらか高いのだが、ロベールのモーションを真似た上で飛び上がり、降り下ろした。
ハンスはいつものクロードの動きではないことにすぐ気付いたようで、身をかわす動きに慎重さが見えた。二、三合でハッとする気配がした。しかしクロードの目論見のなすがままだった。
クロードはロベールの得意な戦術の狙い通りに、ハンスを壁際に追い込んだ。
さすがにロベールがするように得物を打ち落とすことはできなかったが、ハンスの一瞬の隙に、自身の木刀を両手につかんで、ハンスの右肩から左上腕を袈裟に押さえる形で壁に押し付けた。
「グッ」
クロードはハンスの鳩尾に膝を打ち込んだ。
「ばっ、防具つけてないんだから手加減しろ」
ハンスは痛みに顔を歪めた。
「おおよ、防具なしだからな、お前、本気ださないと死ぬぞ。それとも、僕にいたぶられるのが好き? 死なない程度になぶられたい?」
クロードが意地悪くいうと、ハンスはムッと口を引き締めた。そしてクロードを突飛ばす。
突き飛ばされて離れ、ステップを踏んで立て直す。いつものように脚を使った戦術に切り替える。
しかし苛立ちから、目茶苦茶な動きでハンスを翻弄する。戦術として意味のない、相手を疲れさせ、自分も無駄に疲れる動きだ。
何か言いたそうで何も言わない。そんなハンスにいつも以上に苛ついていた。
ハンスが下がる際に、砂に足をとられてたたらを踏む。
クロードは防具をつけていないハンスの胴を目掛けて、木刀を振ろうとした。
一歩出たところで空気が動いた。反射的に木刀を掃く。
何かにあたった音がして、足元に視線をはしらせると、竹串が1本転がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!