枕詞

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クリスマスイブ。 食事を終えて、いつもは互いにプレゼントを交換するタイミングだ。 私は今年もダメ出しされるのだろうか。 うちの使えない夫とは逆に、私は未だ嘗て彼の欲しい物をピタリと当てて渡せたことがない。 だからいつも微妙な顔で「ありがとう」とお礼を言われる。 今年はどうだろう。 実は少しだけ自信がある。 最近一つに関連した無料動画サイトをよく見ていた。 だからそれが欲しいのではないかと、思う。 「はい、これ。開けてみて!」 ガサゴソと包装紙を乱雑に破く彼。 ああもう、もっと丁寧に開けてよ。 でも、クリスマスイブの今日だけは仕方無いから小言は飲み込んであげる。 中から出てきたそれに、彼が瞠目した。 そこには子犬用の首輪。 「え?」 私の顔とその首輪とを見比べる彼の目は何て嬉しそう。 にしし。 さすがにこれには喜んでいるらしい。 「どうして、これ……」 「良いよ、引き取ってあげても。飼いたいんでしょ?だからマンションじゃなくてずっと一軒屋が欲しかったんでしょ?」 この新築の我が家で一緒に犬と暮らしたいと思いを馳せていたのだろう。 その動画サイトは、とあるNPO法人が保護した犬を譲渡するために紹介していた動画だった。 その内の一匹をいたく気に入っており、彼は何度もその動画を見ていたのを私は知っている。 「どうだ、参ったか」 「ははー、参りました」 私はにんまり、してやったりの顔をする。
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