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画面が少し暗転した後で、フェードインするように映し出される。彼の姿がある。
《…えーと、なんて言えばいいのかな》
この後で、彼がなんて言うのか、あたしはもう解ってる。それでも聴く。
《年に一回のことだから、緊張するんだけど。たまにはこういうやり方も、いいのかなと思って》
全然いい。何度聴いてもその台詞、身体の芯のあたりがカーッと熱くなってくる。ほら、あれ。どっかのお弁当で、ひもを引っ張ったらシューッとかいって温めてくれるやつあるじゃない。あんな感じ。どうでもいいけど、この例え方、夢がない。健全かどうかはわかんないけど、あたしだって一応女の端くれなのに。
《つまりは、その……あーもう! 誕生日おめでとう!》
最終的に投げやりな感じになるのも、嫌いじゃない。あーもう、のあたりから、カメラから顔を背けるのもいい。その割に拍手をする手はしっかりフレームインさせているあたりが、またいじらしい。
《いや、面と向かって言うのももちろんいいけど、たまにはこういうサプライズ的な要素があるのも、いいのかなーと思ったんだよ。…少しは驚いたかな》
驚いたというか、なんというか。あたしはもうこの動画を見る回数なんて両手足の指どころか全身の毛の本数をすべて駆使しても足りないんだけど、未だに口元がだらしなくなってしまうのを誰かどうにかしてほしい。こういうのってどこの病院にかかればいいんだろうか。
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