アネモネ

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《まあ、付き合い始めてからもう一年とちょっとくらい経つけど、まだまだこの先も二人で仲良く過ごしていきたいな、なんて思ってます。これからもよろしく》  画面の向こうで、彼はぺこりと頭を下げてみせた。ああもう。リアルに目の前でやられてたら、その下げられた頭をムツゴロウさんよろしく、わしわしと、セットされた彼の髪がぐしゃぐしゃになるのも構わずに撫でまわしたい。もっと言うならそのままぐっと抱き寄せて、あたしのたいしてたわわでもない胸元に、ぐっとその顔を押しつけてやりたいのだ。しかしそれは叶わない。彼は目の前にいないから。  どうしようもなくなったあたしは、手近にあった、仕事帰りになんとなくやったUFOキャッチャーで掴んでしまったぬいぐるみを、ぎゅっとやる。違うんだよ、こういうんじゃない。そもそも温もりがないし、むしろ誰もいなかった部屋の冷気を存分に吸収したぬいぐるみは非常にひんやりしていて、あたしはすぐにそれを放り投げた。
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