アネモネ

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アネモネ

 うまくいかないときは、何をやったところでうまくいかない。仕事がうまくいかなかった日は、家に帰ってカップ焼きそばを作ろうとすればソースを入れた後で湯を注いでしまうし、そうでなくても蓋が外れて麺をシンクに盛大にぶちまけてしまったり、パソコンでYouTubeでも観ようと思ってパソコンを開けば、コンビニで買ってきた発泡酒をキーボードにこぼしてみたりとか、ろくなことが起きない。  それは当然、家に帰る前も変わることはない…と思った。それは、空っぽになってしまった財布の中身を見ればよくわかる。何の気なしにぷらっと寄ったパチンコ屋に、あたしは福沢諭吉を一人と半分くらい寄進してしまった。こんなことしない方がよっぽどお金が貯まる、と気づいた時には既に遅し…というのは、まさにこのことだろう。  ああ、もうこんな歩きにくい靴、側溝に叩き捨ててやりたい。足が痛い。もう誰でもいいから、あたしの足の裏を揉みほぐして、ついでに肩も叩いてくれたりして、最後の最後はこの胸に溢れんばかりのもやもやをそっと取り除いてくれまいか。そう思いながら帰り道を歩いていると、三回もホストクラブの勧誘にひっかかった。「お姉さんどこ行くの」だって。吐き捨てるように「帰る」と言って、ステラおばさんのクッキー屋みたいに甘ったるい香水のにおいを漂わせる男の前を通り過ぎた。
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