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平日の夕方ということもあり、境内に参拝客は見当たらなかった。
拝殿の正面に立った響は鈴をガラガラと乱暴なほど強く鳴らした。
そして柏手を打つと、
「神様! 場の雰囲気でOKしてしまったボクをお許しください!」
と言った。
隣の俺にも丸聞こえの声量で。
「何……?」
自分の願い事も忘れ、耳を疑ってしまう。
「懺悔だよ!」
「そういうのは教会でやるものじゃないか?」
「知らない。キリスト教じゃないし」
だからって神社に来られたら、神様も困るだろう。
「まー、いいじゃん。大切なのは気持ち」
彼はポケットから小銭を出すと、賽銭箱に放りこんだ。
すると何を思ったのかもう一度、鈴を鳴らし、柏手を打った。そして、
「あと、龍広くんにも好きな人を作ってあげてくださいっ!」
と、言った。
今度は周りの杉林にまでひびき渡るくらいの大声で。
「……はい?」
彼が一体何を言っているのか、分からなかった。
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