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「まさか、大凶だった!?」
「違う」
「凄いね、大凶なんてボク引いたことないやっ!」
「だから、違うって」
語尾が少し強くなってしまった。すると響は少し真顔に戻るなり、
「まあ、ムキにならないでさあ。ただのおみくじじゃん」
と、肩を叩いてきた。
「別に、ムキになんて」
──ただ、少し……。
「そう? なら、よかった」
彼はやれやれという感じで、あくびをする。
そして、さっきはヒーヒー言いながらのぼった石段を、軽やかに下り始めた。あっと言う間にその背中が小さくなっていく。
手が届かないほどに遠くなっていく。
彼は俺のように途中で振り返ったりしない。
そのうち、こうして二人でいる時間も減ってしまうのだろう。
情けで作った恋人であったとしても、彼ならきっと大切にするだろうから。
長いため息をつき、目を閉じた。それから、祈るような気持ちでポケットの中のおみくじに触れる。
「龍広くーん!」
石段の遥か下から声が聞こえた。
「あんみつ食べたくなった! どっかで食べよー!」
俺は目を開き、歩き出す。
本当はもう帰りたかったが、黙ってついて行くことにした。
今はただ、一緒にいられる時間を大切にしよう──。
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