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「──あら、随分と久しぶりね」
しかし、出迎えてくれたのは兄ではなく、彼の同居人であるケティだった。
黒色のノースリーブワンピース姿の彼女は、赤と黒の混ざった髪を三つ編みにしていた。少女じみたその髪型に対し、顔のほうは妖艶に化粧がほどこされている。
「あたしはさっき帰ってきたところなの」
切れ長の目も、人工的なまつげに覆われている。
「お店の前で転んで、足、ひねっちゃって」
彼女は困ったように頬を引きつらせると、自分の左脚をさすった。その足首には包帯が巻かれている。
「イヤよね、あたしたら。ドジで」
笑いながら身をかがめた彼女は、指先で包帯のゆるみを直す。
そのとき、深めに開いたスリットから、肉付きの良い太腿がのぞいた。その肌は驚くほど白く、美しかった。
「……大丈夫、ですか?」
「心配してくれるのね、ありがと」
そんなつもりでは──と、思わず視線をそらす。
「兄さんは?」
「仕事中。きっと今日はもう帰って来ないわ」
「そうですか」
留守ならしょうがない。
礼を言い、ドアを閉めようとしたとき、
「待って」
向こう側から腕を掴まれた。
「せっかく来たんだもの。お茶くらいいかが」
優しい言葉とはうらはらに、その手には振り払えないほどの力がこもっていた。
「いいでしょ?」
血のように紅い唇に、ゆったりとした笑みが浮かんだ。
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