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触れ合った唇の間から、湿っぽい吐息がもれる。乱暴な長いキス。
呼吸ができなくて、苦しくて、首を振って払おうとしても、彼はしつこくついてくる。
「……っ、や、めろ!」
「照れなくていいの、楽にして」
「ふざけるな……!」
「好きなくせに」
薄ら笑ってささやいた彼は、耳たぶを食んだ。舌でなぶり、わざとらしく音を立てて吸い始める。
「……ッ!」
途端、甘い感覚が呼び起こされる。
耳の奥深くにまで届く唾液の音。
時折、からかうように吹きかけられる息。
「……っ、あ……く……」
その都度、律儀に反応してしまう己の体が憎い。
耐えきれず、顔をそむけようとしたものの、逆にアゴをつかまれた。強制的に正面をむかされる。
「ほら、逃げちゃダメ」
今度は鼻先で、彼は含み笑った。その笑顔に先ほどまでの穏やかさはない。まつ毛の奥にある瞳には光が無く、冷酷な感情を宿しているようだった。
まんまと手の内に落ちた獲物をどうしてしまおうか考えているのだろう。
「あたしだけを感じなさい」
長い爪が頬をくすぐる。
銀色に塗られたそれは、獣の牙のごとくギラギラと輝いて見えた。
「やめて、くれ……」
「どうして? とっても辛いことがあったんでしょう」
ケティは俺の本心をさらりと言い当てた。
驚きと恥ずかしさで引きつった俺を優越感たっぷりに見下し、大きな口をさらに横に広げて笑う。
「だったら、もっと愉しみましょうよ」
そして鼻唄をうたいながら、俺のシャツをめくりあげ、手を差し入れた。
熱を帯びた肌を這い回るその手は、あまりにも冷たくて。荒々しくて。
「……んっ!」
腹をなぞり、胸をまさぐられ、体は再び感じ始める。
「だいぶ溜まってるみたいね」
「黙れっ……! くぅ、……んんっ!」
焦らすような愛撫。
その手が体温に馴染んでも、肝心なところには少しも触れてくれない。
「ん……ふ、あっ……」
「カワイイ」
もどかしいほど弱い刺激に、首を振って抗うしかなかった。
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