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もっとよく周りを見てみろと叱りつけたかった。
冗談じゃない。
響は、ずっと俺だけの──。
脳裏によぎった言葉を振り払い、ついでに背中をさすってくれた手も払った。
「それで何て答えたんだ?」
咳払いして気を取り直す。
本当は聞きたくもないのに、話をとめるわけにはいかない。
「んー、考えたけどよく分かんなくって」
その言葉に、少しホッとする。
「だから『ちょっと待って』って言ったんだけど、『待てない』って泣きそうな顔で言われちゃってさあ。まいっちゃって」
彼は依然として笑顔のままである。
青い青いの空の上、風にゆうゆうと舞う鯉のように──。
「まさか……お前……」
一方で、俺の中の雲ゆきは怪しくなった。
全身の血の気が引いていく。
嘘だ。
嘘だと言ってくれ。
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