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1.秘密事/相談事
──「龍広(タツヒロ)くんがいれば、別にいいや」
あのとき、お前は冗談のつもりだったんだろう。
それなのに、俺がどんなに嬉しかったか。
知らないのだろう。
あんな小さな言葉で喜んでしまう自分が恥ずかしくてたまらなかった。
それでも何度も何度も思い返しては、その都度、胸のさらに奥深くへ大切にしまいこんだ。
知る由もないのだろう。
そうだ。
お前は俺のことなんて何も知らない。
でも、だからこそ、俺はお前が──。
「龍広くんさ、まじめに聞いてる?」
「聞いてない」
一言で切り捨てる。
実際は聞いていないわけがないのに。
心臓の鼓動が早まっているのを感じながら、あくまで平静を装う。
かゆくもない頭を掻き、眠くもないのにあくびをしてみる。
それを見た響(ヒビキ)は大きなため息をつき、呆れるように首を振った。
「頼むよ。こっちは真剣なんだからさあ」
真剣──その割にはニヤニヤしっぱなしではないか。
指摘してやるつもりは無い。一人で勝手に浮かれていればいい。
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