0人が本棚に入れています
本棚に追加
インフラが整備され、作物を食い荒らす獣を、追い回さずとも食事にありつけるようになった現代。
かつて蛇に唆され、知恵の実をかじったばかりに、楽園を追われた者の子らにとっては、この世界も十分にあたたかい。
たとい争いが絶えず、今も暗がりで誰かが泣いていようとも。
どうして泣いているんだろう。転んで膝を擦りむいたのかな。それとも親と逸れたのかなあ。
手に負えなければ見なかったことにできるように、その闇に引き摺り込まれないように、ビッグネームの影に隠れた不特定多数が敷いた社会のレールに、安全帯を結んだ人々の足音を聞いて、暗がりがほえる。
『泣くとはなんだ。親とはなんだ。誰が私をこのようにした。光を知らなければ、あたたかさが恋しくなりはしなかったのに!』
一つ、二つと足音が減っていく。一際大きな足音が耳につく。そして、最後に残ったのは静寂だった。
【あづさいの森】
最初のコメントを投稿しよう!