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この先・禁足地、入るべからず。声なきアラートを鳴らすカードが下げられた、遊歩道の手すり紐にもたれかかって、私はポチと呼び続けている。
昨夜、おやつをやらなかったから拗ねてしまったのだろうか。こちらを振り向きすらしないで、ポチは遊歩道から外れていっている。だって、今月のお小遣いが底を尽きそうなんだもの。
朧げながら覚えている。ポチは私が小さい頃に拾ってきた犬だ。おろしたての服を泥まみれにして帰ってきた私を見て、凄い剣幕をした母にすら尾を振った、肝の据わったやつだ。以来、私のお小遣いで食事をとる、心臓まで毛むくじゃらなやつだ。
親犬からはぐれたのか、弱っていたのが嘘のように大きく成長し、私の財布と部屋を圧迫する家族の一員だ。そのポチが振り向きすらしないで、行ってしまおうとしている。
くるんと巻かれた尾が、見えなくなってしまったら、もう会えないのではないかと思わされて、私はサンダルとか虫刺されとか気にせずに手すり紐を跨いだ。
ーーーーーーーーーー
アジサイって、こんなに保つものだったかしら。暦の上では秋になろうとしているのに。アジサイって、こんなに大きかったかしら。見上げなければいけないほどに。艶めかしい赤が道なりに続いている。
その道はトンボがけでもされたかのように整えられていて、あるのは先をいったポチの足跡だけ。その終着点でポチは、土を掘り返していた。爪が割れでもしたのだろうか、どこか辛そうな表情で、しかし前足を止めずに何かを探していた。
そして掘り当てたのは白い棒状のもの。それが骨であると気づくにはそう時間を要さなかった。土を被った眼孔と目があった途端に悟ったのだった。何かに取り憑かれたかのように穴を掘っていたポチもすっかり落ち着き、
今更ながら前足の痛みに鼻を鳴らしている。
泣きたいのはこっちだ。図々しくもおんぶをせがむポチのリードを引き、私はアジサイの森を引き返した。
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