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汗とシューズと甘いコロンの匂いの入り混じった部室で、みんなでお菓子を分け合っていると、2年で情報通の野村明日香が口を開いた。
「せおっちに聞いたんだけど、転校生が来るんだってよ」
せおっちとは世界史の先生で、50を過ぎているのにピアスの穴まで開けている長髪の異端児のような男性教師だ。その自由きままな振る舞いから、割と生徒には人気がある。
「ホントに!? 男子? 女子?」
その話題にいの一番に食いついたのは、同じく2年でマネージャーの小出カナだ。
「男」
『おおー』
どういう感情から発せられたのか、部室には感嘆の声が響く。
「でも男だからってイケメンとは限らないでしょ?」
新3年生の佐野キャプテンがジャケットを羽織りながら口を開く。
その話題には触れることなく、着替えを済ませた橘璃子がローファーを履きながら部室の扉を開けた。
「そんじゃ。お先」
カナがポッキーを差し出しながら尋ねる。
「璃子今日早いねぇ。当番?」
ポッキーを二本つまむと口にくわえながら頷いた。
「今日お風呂掃除なんだ。お疲れでーす」
そうキャプテンに挨拶しながら、重い鉄製の扉をスライドさせた。
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