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一つに結んでいた肩下まで伸びた髪をほどきながら、小走りで掛けていると後ろから声を掛けられた。
「璃子」
振り返ると校門の側に一人、男子生徒がこっちを向いて立っている。
自分の名前を呼ぶような人間は辺りを見回しても他にはいない。
夕日を後ろに受け、背の高いシルエットが長く伸びる。
モスグリーンのネクタイということは同じ学年だ。
一瞬の沈黙の中で自分の記憶を引っ張り出す。
彼は――――おそらく璃子の知らない男子だ。
クラスメイトではない。
部活の体育館で見た事もない。
璃子は割と人の顔を覚えるのが苦手だった。
言葉を失ってたたずんでいると、その男子生徒が璃子に近づいてきた。
「久しぶり。俺だよ。柊也だよ」
「…………」
「えー……っと、東出柊也」
「ひがしで……とうや……くん」
璃子は目を彼に向けたまま、頭の中のエンジンをフル回転させて懸命に思い出そうとした。
何となく見た事があるような?
……無いような?
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