福渡 慶子

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福渡 慶子

 満開の桜の木の下で、恋敵のあの子は水死体になりました。  わたしの夫とそして彼女が勤めるホテルから徒歩十五分ほどのところにあるK公園はこの辺りでは有名な桜の名所で、彼女の命日となってしまった四月一日は、平日とはいえ多くの花見客で賑わっていたそうです。  とは言え、近辺に大学や大きな会社などない、一地方都市の花見ですから、日付が変わる前にぱらぱらと散会し、夜通し騒ごうなんて元気の良いひとたちはほとんど見られません。  あの子の死亡推定時刻は午前四時半前後。そう聞きましたが、その頃周囲はすっかり静まりかえっていたことでしょう。  ああ。  ええ、想像です。わたしはそのときのことを何度も何度も、何度も何度も想像したのです。ですから実際に見るほどに、美しく艶やかに、細部までこまやかに、その絵を思い浮かべることが叶います。  K公園の翠の池は、水縁の桜並木の振り零したはなびらをひらひらり、と吸い込んで、一面ひろびろとした花筏だったことでしょう。  あの子は明け方に近い夜闇の中で、うら若き身を仄かな淡紅の絨毯の上へ投げ出します。  どうしてか。     
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