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昨年スキー場でナンパしてきた大学生とは、奇跡的に続いていたが、三十を超えた自分が、結婚を真剣に考えて交際するべき相手とは到底思えなかった。――それを言えば、あのひととの関係だって、不毛なことこの上ないのだけれど。
知っている。でも、言い方は悪いけれど、彼はちょうど、いい。逢瀬に対する負担が少なくて、互いにずるずると卑怯で、それとは別に、もちろん、わたしは彼のことが嫌いではなくて。
恋心を纏ったところで、自分が清くなどないのは、わかっている。
不倫だ。
罪悪感や虚しさに嘔吐しそうになることもあるし、気晴らしのスポーツのように割り切れる日もあるけれど。大人を決め込むということは、清濁あわせ呑む、ということは、こういうことでしょう。そういう開き直りもあった。
こどもじゃないのだもの。清いままでなんか、いられない。肉欲だって、打算だって、ある。少しくらいのズルをしなくちゃ、なにもないまま、乾いた人生。――いえ充実していますとも。
オフィスの壁にかかっているホワイトボードのスケジュール欄に、ふたりぶんの《外出中》マグネットを貼り付けて。
館外の独立型チャペルに向かい、扉の鍵を閉めて、会社自慢の大きなステンドグラスの下で。
誓いの欠けた指輪から逃れ得た冷たい指が、わたしを愛撫する――。
◇
それでも大概息ができなくなっていることに気付いたのは、
マンションまで帰宅した四月の第一日、深夜、
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