福渡 慶子

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 いたずらに、か弱き女性を突き落とす者があったのか、はたまた足を滑らせたのか、はたまた世を儚むようななにかがあったのか。それはわかりません。  かわいそうに。そう思います。  あんなに若くして、それも有能で美しい女性が、どうして死ななくてはならなかったのか。  お気の毒に。そう思います。  ――嘘をつけ、そう言いたげなお顔ですね?  ええ、嘘かもしれませんね。  わたしは彼女が死んで呉れて、ほっとしました。嬉しい、と言い換えても良いかもしれません。  どうしてか。  説明は不要でしょう。彼女は恋敵。わたしの夫を盗った女です。  ……盗られたというのは言い過ぎだ?  籍を抜かれたわけではないだろうと、そうおっしゃいたいのですね。  なるほど。男のひとの考え方かもしれません。  わたしと夫は、まだ婚姻関係にある。ええ、それはそうでしょう。  妻の座を盗まれたと、申してはおりません。  けれど夫のこころは、あの子に奪われておりました。すべてではなく、一日の内の数時間、一週間の内の数日でも。夫はあの子のことを考え、体に触れ、ときには共に笑いあったのです。  ただの浮気、と、そうおっしゃるかもしれません。  しかし、わたしは辛い三角の愛の渦中で、長く苦しみもがいてきました。  結婚して十年。  あのひとは家に帰ると、毎日わたしに、愛してる、と言います。     
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