8人が本棚に入れています
本棚に追加
いたずらに、か弱き女性を突き落とす者があったのか、はたまた足を滑らせたのか、はたまた世を儚むようななにかがあったのか。それはわかりません。
かわいそうに。そう思います。
あんなに若くして、それも有能で美しい女性が、どうして死ななくてはならなかったのか。
お気の毒に。そう思います。
――嘘をつけ、そう言いたげなお顔ですね?
ええ、嘘かもしれませんね。
わたしは彼女が死んで呉れて、ほっとしました。嬉しい、と言い換えても良いかもしれません。
どうしてか。
説明は不要でしょう。彼女は恋敵。わたしの夫を盗った女です。
……盗られたというのは言い過ぎだ?
籍を抜かれたわけではないだろうと、そうおっしゃいたいのですね。
なるほど。男のひとの考え方かもしれません。
わたしと夫は、まだ婚姻関係にある。ええ、それはそうでしょう。
妻の座を盗まれたと、申してはおりません。
けれど夫のこころは、あの子に奪われておりました。すべてではなく、一日の内の数時間、一週間の内の数日でも。夫はあの子のことを考え、体に触れ、ときには共に笑いあったのです。
ただの浮気、と、そうおっしゃるかもしれません。
しかし、わたしは辛い三角の愛の渦中で、長く苦しみもがいてきました。
結婚して十年。
あのひとは家に帰ると、毎日わたしに、愛してる、と言います。
最初のコメントを投稿しよう!