福渡 慶子

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 その言葉が、どれだけ辛かったか。  嘘なのです。  わたしへの愛がたとえ嘘ではなくても。あの子をも愛している時点で、それは嘘であるのです。  愛はふたところに配ってはならないものです。固く貞操をまもるのが結婚。わたしたちは永久に夫婦であると、そう誓い合ったのですから。あのひとの職場であるホテルのチャペルで、十年前に。  結婚式場の営業のエースとして、あのひとは毎日忙しく、あちらこちらに気を遣って、働いています。  その夫を、わたしは支えてきたつもりでした。  それなのに。あの子と。  あの子の話を、よく夫は夕食のとき、世間話に聞かせて呉れました。凄腕のウェディングプランナーで、美人で、でもまるで男っぽくサバサバしていて、デキるやつなんだと。  夫は彼女とそういう関係になる前から、同僚として、信頼していたようです。  結婚式で、はたまたブライダルフェアと呼ばれるイベントで。トラブルがあるたび、華麗にふたりでそれを収拾してきた武勇伝を、よく聞かせて呉れました。     
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