福渡 慶子

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 わたしも楽しくその話を聞いておりました。わたしも結婚前は花屋で働いていたことがあったので、なんとなく雰囲気はわかるのです。彼女は女だてらに、とても仕事のできる、いわゆるキャリアウーマンというやつなのでしょう。  彼女のこと、随分お気に入りみたいですけど、浮気なんてなさらないでくださいね?  そう言うと夫は屈託なく笑ったものでした。  ばぁか。女として見てるんじゃねえよ。あれは背中を預けられる戦友みたいなもんだ。  夫の言うことだからと、素直に鵜呑みにしたわけではありません。  言い方、雰囲気、女の勘と言えば刑事さんは笑われるかもしれませんが――   とにかく、そう話している頃、夫とあの子は、いわゆる男女の関係ではなかったように思います。  変わったのは二年前の、そう、今と同じ時期――春。  とわたしは思っているのですが、その辺りはあくまでわたしの推測に過ぎません。直接夫に訊いてください。  とにかく夫はわたしを裏切り、彼女と体の関係を結んだのだと、そうわたしは思っています。ぱったりと、食卓で彼女の話をすることがなくなりました。けれど水を向ければ、相変わらず仲良くしているようなのです。ああ、これは、と思いました。  確認ですか? もちろん、しようとしました。冗談めいてカマをかけてみたことも――。  浮気なんて、していない。そう夫は言いました。  嘘。  夫婦の中で、初めて明確な嘘がつかれた瞬間でした。     
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