福渡 慶子

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 それからは地獄の日々です。  世界にただひとり、そう信じて結ばれた相手、最愛のパートナーが、最も安らげるはずの家の中で嘘をつくのですから。  嘘は悪。そう言われて育ちましたし、わたしは彼になんの嘘もついてきませんでした。  ひとつの嘘は、すべての信頼関係を崩すものでした。  毎日夫がわたしに言う、愛してる、の言葉すら、信じられなくなりました。  愛してるの数だけ、嫌いになるのです。嘘つき――この、嘘つきが。  夫はホテルの仕事ですから、夜勤もあります。  まさか夜勤に行かないで呉れとは言えませんから――夫が帰らない夜、わたしはひとりきりの寝室で、眠れぬ夜を過ごしました。  ええと、それで――なんの話でしたっけ。  自白しろ?  なんのことですか、刑事さん。  わたしはすべて、それこそ、嘘をつかずにお話しているつもりです。  嘘がひとを傷つけることを、二年間、膾切りにされるように、この身で体感してきたのですから。  ……わたしの犯した罪のお話ですね。  ええ、正直にお話している通りです。  あのひと愛用のライター――わたしが結婚前にプレゼントした――が現場で見つかった。     
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