福渡 慶子

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 それで、あなた方は、夫が彼女を池に突き落とした犯人だと、誤認してしまった。  ええ、それは、申し訳なく思っています。  ひとつなら、許されると思ったのです。  エイプリルフール、だったものですから。  これまでついたことのない嘘ですが、ひとつだけ、つかせていただいたのです。  あの日、夫は彼女とK公園で密会などしていません。  あのライターは、事件の報道後、わたしが故意に現場に落としに行ったものです。  嘘は罪。  わたしはますます深い闇に包まれるのを感じましたが、けれど光も見えておりました。  警察に疑われた夫が、わたしにすべてを打ち明けて呉れたら。  彼女と浮気したのはほんとうのことだけれど、けれど殺したわけではない、と泣きついて呉れたら。  嘘を撤回して呉れたら。  わたしは夫の、妻に、戻れる気がしたのです。再びふたり、安心してあの家で暮らせるようになると。  くだらない理由だとお思いでしょうが。  だから夫が、あの若い男性を――   あの子の彼氏さんを殺してしまうなんて、思いもしないことでした。  彼氏さんは、夫があの子を殺したのだと決めつけたのでしょうね。  言い争い、揉み合い、夫は彼をホテルの非常階段から突き落としてしまった。  夫は、今度こそほんものの殺人犯。     
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