福渡 慶子

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 わたしは、なんでしょう……。少なくとも、捜査の妨害をしてしまった、その罰を受けるのでしょうね。ええ、そのつもりです。  夫は刑務所に入るのでしょうか? ……ええ、どうなったって、待ちます。だって、わたしはあのひとの妻ですもの。  嘘の日は終わりました。わたしは事実しかお話いたしません。  わたしはあの子を池に落としてなどいませんし、夫もあの日あの時間、家で寝ていました。  夫の浮気の確証を得たかったわたしが、朝の散歩のついで、ライターを落としに行った、それだけの。  ことでひとり、死ななくていいひとが死んでしまった。  嘘は、やはり、罪深い。  どうして彼女が死んだのか? 知りません。興味もありません。  ふらりと夜歩きの隙間、ふいに飛び込みたくなったのかもしれませんし、桜に見惚れて足を踏み外したのか、小金を狙った不審者の仕業か。  大事なのは、わたしにとっては、恋敵が死んだということ。  オフィリアのように花に囲まれ、或いは淡紅の鱗をまとった人魚姫のように。  美しい死。  《四月の魚(ポワソン・ダブリル)》の顛末。ああ、嘘をついて良い日なんて、やはりあるべきではありません。
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