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優斗の誕生日を実家で祝うことはあっても、私の誕生日にこうして実家で過ごすのは久しぶりのことだった。
先月、父から電話があり『お前の誕生日をこっちで祝わないか』と提案されたのだ。
めずらしいこともあるものだと思ったけれど、母のこともあり父の様子を心配していた私は、誕生日に里帰りすることにした。
母は、ひとつ前の季節、寒さの厳しい冬に亡くなった。
末期の癌だった。
長い入院生活。
治療を続けてはいたが、回復の兆しは無く・・・・・・。
余命の宣告を受け、最期は眠るように息を引き取った。
母が他界してから初めて迎える私の誕生日。
実家にいると、キッチンから呼び掛ける楽しそうな母の声や、優斗をあやす優しい姿を思い起こして胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
「さくら」
母の思い出に浸っていた私は、父の声で我に帰った。
ハッとして顔を上げ、父を見やる。
やはり父も少しやつれたかもしれない。
そう感じた時、父の口から思いもよらない言葉が飛び出した。
「母さんからお前に、贈りものがある」
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