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壁際に置かれた本棚。
父の仕事に関する読み物から実用書、小説のたぐいまで隙間なく並べられている。
部屋の奥には焦げ茶色の机と回転椅子。
その机の上に、父のものとは思えない封筒がひとつ置かれていた。
真っ白な封筒。
母が好みそうな淡い色彩で、桜の絵が描かれている。
宛名を書くスペースには、線が震え歪んだ文字でこうあった。
『2017年1月7日 さくらへ』
贈り物は、母が亡くなる一週間前に私に綴った手紙だった。
車椅子に乗ることも、身体を起こすこともままならなくなっていた母。
『病気には勝てないわね』
辛くて辛くて仕方がないはずだったのに、そんなふうに言って微笑む強い母だった。
きっと懸命に書いたのだろう。
日付と私の名を指でなぞる。
母の弱々しい筆圧が指先に伝わった。
「お母さん・・・・・・」
小さく囁き、封筒を開く。
中には淡いピンク色の便箋が一枚、折り畳まれ入っていた。
徐々に大きくなる鼓動を感じながら、私は母が残した手紙にそっと視線を落とす。
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