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ーー手紙を持つ手が震えていた。
視界が滲んで、母が一生懸命書いた文字がよく見えない。
熱いものが込み上げて、抑えることができなくて・・・・・・。
とめどなく溢れる涙が幾筋も頬を伝う。
病気のことなんて、何ひとつ書いてなかった。
あんなに辛い状態だったのに、母は最期までただ私の幸せを願ってくれていたんだ。
「おかあ・・・・・・さん、お母さん・・・・・・っ」
天国で笑って暮らしている母を思い浮かべて堪えようとしても我慢できずに、声をあげて泣きじゃくった。
ふと、静かにドアが開く気配に振り向くと、優斗が隙間からこっそりと私の様子を伺っていた。
「ママ・・・・・・泣いてるの?いたいいたいしたの?」
「ううん」
涙を拭い、優斗と目線を合わせるようにしゃがむ。
すると、眉を下げ今にも泣き出しそうな顔で私の胸に飛び込んできた。
小さなその身体をしっかりと抱きとめて、頬を寄せる。
「ママね、嬉しかったの。嬉し涙だよ」
書斎の窓から、桜の木が見える。
満開に彩られたその花は、穏やかな夜風に撫でられてふわりと揺らめいていた。
ー完ー
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