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「うあー酸素うめー!」
「く、苦しかった…」
家を出たのがもう夕方だったからか。駅についたころにはもう、陽が落ちて暗くなっていた。でも、街は落ち着きなんてまったく見せず、ホームからでもその喧騒に胸が躍る。
「僕、実はお祭りって始めてで…」
「えぇ!そんな奴いんの?」
「いや、見たことはあるんですけど、ただ、じっと眺めてただけで…」
「マジかー。え、じゃあ、イカ焼きとか、電球ソーダとか、りんご飴とか、カキ氷とか、食べたこと無いの?」
「観たことあるだけですね…」
「嘘だろ!腹減ってる?」
「ま、まぁ…」
「じゃあ、ちょっと色々観て回ろうぜ。」
サンダルで指がすれて痛い。でも、そんな事気にならないぐらい、はしゃいだ。
雑踏の中、輝く縁日の灯りは、人間の生命力で光ってるみたいだ。悠は子供みたいな顔で目をキラキラさせている。自分の興奮をまるで、興奮したら負けだとでも言わんばかりに、押さえ込んでいる。ソースや、焼かれた砂糖の匂いが人の汗やパフュームの匂いと混ざり合い、独特の祭りの匂いを作り出している。
「ど、どれが美味しいんですかね…」
「どうだろ。不思議と、何食っても美味いよ。高いけど。」
「咲人さんは何か食べないんですか?」
「そうね…じゃあ…とりあえず、なんか飲もうか。」
屋台の列で並んでいる時間は、不思議とどれだけ待っていても飽きない。きっと、遊園地のアトラクションの様に、これから来る幸福を待つ時間は、その時間自体も幸福なのだ。
そして、俺は、電球ソーダを買った。
「しかし、身体に悪そうな色だな…うわー!甘!どう?」
「光ってます!」
「ハハ、見れば解るよ。」
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