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「キッツキツだな…大丈夫?」
「は、はい。頑張ります。」
飛び込むように乗客の中に混ざる。冷房が効いているとはいえ、東京の満員電車は夏だと酷く暑い。とんでもない不快指数だ。
「うぅ…せ、せまい…」
「悠、大丈夫?」
「なんとか…」
駅員が、大声で次の電車に乗れや!ひっぱたくぞ!というようなことを叫ぶ。
それに反抗する様に、更にワッと乗客が押し寄せる。
「うぐっ…」
人の波に押される。背の低い悠は、息をするだけでも大変そうだ。比較的高さのある自分は、こういう時だけ、その身長に感謝する。
「もっかい、聞くけど、悠大丈夫?」
「が、頑張ります…」
(弱った…!仕方ないか…)
「ほら。こっちおいで。」
悠の腕を引き、壁際に押しやる。ちょうど、窓ガラスを背に、向き合うような形だ。つまり
(壁ド…いや、これは、まあ仕方の無いことだから…)
周りでは、彼氏と思われる面々が自分の女をこれ見よがしの壁ドンで鉄壁の守りをしいている。そんな中、俺は、ひ弱な友人を守っている。
小松。今ならお前の気持ちがちょっと解るかも。ああ、死にたい。
「咲人さん…す、すみません。」
思ったより壁が近いからだろうか。悠は紅潮しはじめた自分の顔を肩から提げたかばんで隠している。
(…まぁ…いいか…)
電車は、祭りへと向かって進み始めた。
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