愛は『赤』より出でて・・・

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某オフィスの昼休み・・・ 同僚 「おっ。洒落たネクタイだな? どうしたんだ?」 男 「妻からのプレゼントでね。俺は忘れていたんだが、先日、結婚記念日だったんだ。最近、ずっと妻と話す機会がなくてね。新規のプロジェクトが忙しかったし。いや、それだけじゃあないんだが・・・色々あって」 同僚 「尽し甲斐のない男に、できた奥さんだな。ろうけつ染めか、それ? なんともしぶい赤だな」 男 「ああ。妻の手作りなんだ」 同僚 「ハッ! ますますもって妬けるな。俺の女房なんか、弁当だって手作りで持たせちゃくれないぞ。なんとまあ、できた上に見せつけてくれるなーー愛のふかさってヤツか!」 男 「よく・・・分からん」 同僚 「照れるなよ。色男め」 男 「お前はーーあいつが、これを作っているところを見ていないから、そんなことが言えるんだ。俺は何というか・・・今、この瞬間も叫びだしたい心境なんだ」 同僚 「叫びだす? 何で? どういうことだ、そりゃ?」 男 「このネクタイを、しぶい色だと言ったよな?」 同僚 「ああ」 男 「しぶい赤だと言ったよな?」 同僚 「分からんな。言ったがーーそれがどうだというんだ」 男 「この染めにつかった染料な。何だと思う?」 同僚 「分からん話の流れだなあ。うーん。自然原料ってやつか。木の実だか草だかを使うという・・・」 男 「自然物、には違いない。ただな。モノが問題なんだよ」 同僚 「もったいぶるヤツだなあ。はっきり言ってしまえよ!」 男 「血だ」 同僚 「は?」 男 「血。血液」 同僚 「血液ィ。マジかよ・・・何の? 染料に使えるような動物の血なんて、あるのか?」 男 「妻」 同僚 「・・・耳がおかしくなったかな。今、何て言った? 何の血ーーだって?」 男 「妻だ」 同僚 「奥さん!」 男 「そうだ。人間の血だ。俺のーー妻の血なんだ」
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