【 九 平和が訪れる 】

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 バンリが鏡を見せる。この鏡は人も風景も映し出さない。そこには魔界の文字で書かれた俺の遺書が綴られている。俺が敗れたこと、美少女戦士の健闘を称えること、奴らが人間界に戻ったこと。当然、ウソのほうが多い。人間界へ戻ったことだけが本当だ。最後の警告は個人的な想いだ。人間はその時の悲劇を時と共に忘れてしまう傾向があるから、釘を刺しておかなければならない。 「……よし。これでいい。やってくれ」  そういうと、術者は鏡に手のひらを向け、何やら長い呪文を唱える。紫色の淡い光が発せられ、池にできる水紋のように鏡の表面が波打つ。それとともに、鏡に記された文字は徐々に消えていく。完全に消えれば終了らしい。 「無事、完了いたしました。人間界各国へ、大魔王様の遺書をお送りしました」 「ご苦労だった。ゆっくり休んでくれ。バンリ、休む部屋と報酬を用意してくれ」  これで第二段階が終わった。これからが本番だ。  一週間後、人間界に生存している魔族からの報告が入った。美少女戦士たちは、自ら『自分たちが大魔王を倒した』と世界政府の前で勝利宣言したそうだ。人間界はお祭りムード一色で、二週間かけて世界をめぐる凱旋ツアーを行うとか。勝利の美酒は絶望を覆い隠す。それは時として希望を与えるが、真実を隠し通す者たちは闇を持ちながら余生を過ごすことになる。俺は幹部数人とセンサを呼び、進捗を話し合った。 「ここまでは、レザ様の思惑通りに事が運んでいますね」 「とりあえずはな」 「しかし、レザ様の名前で送ったのは問題なかったのでしょうか。殺されたはずなのに本人が送るというのは矛盾があるのでは?」     
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