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君にベタ惚れ
壁際に並んだいくつもの水槽。
魚、ハツカネズミ、カエル、イモリ。魚はともかく、イモリなんかは、女子達はいやがって見ようともしなかった。
でも、そいつはそれを満足そうに眺めていた。唇にかすかな笑いを浮かべて、魚やカエルに何かを話しかけている横顔。水槽の中の存在が、大切だと分かるような、柔らかな唇の動き。
でもそれは、噂ほど変わっているようには見えなかった。
犬や猫に話しかけるような、普通の顔のように俺には思えた。決して病的な愛情を注いでるようには見えない。
つい声をかけそびれて、そいつのしていることを、俺は息を殺して見つめていた。
くせっ毛でやたら硬い俺の髪とはまったく逆の、すごくサラサラした髪質なんだろう。まっすぐ伸びた前髪がざっくり目元を覆っているような髪型だった。眼鏡があるせいで、かろうじて髪が目に入らない、といった感じだ。そんな前髪のせいで目のあたりはよくわからないけど、顔の下半分は無駄な肉のない、彫ったような横顔だった。鼻筋が外人みたいにすっとしていて、もしかして結構イケメンなのかも知れないと思わせる。話す度に、くっと飛び出た喉仏が微かに動くのが、妙に格好良かった。
どれくらいそうしていただろうか。俺ははっと我に返り、「あの」と間抜けな言葉と声で、そいつに呼びかけた。
驚いたように、そいつは俺の方を向く。
ふいに黄ばんだカーテンがひるがえって、薄暗い室内に、風とともに光が射し込む。
そいつの長い前髪がふわりと舞い上がり、シルバーフレームの眼鏡の奥の瞳が、俺を射抜いた。
眼鏡のレンズの向こう側の、線を引いたようなくっきりとした目のラインは、まるで人形のように整っている。おまけに、その中にはめ込まれている瞳は、日本人には見えないような、透き通った紅茶みたいな赤茶色をしていた。
俺はその目に思わず見入ってしまった。
(きれいな目……)
うっとりしている俺の耳に、そいつの声が飛び込んでくる。
「……誰だ?」
そいつの口から発せられた、低い、体の奥底に響く声。
低くても、はっきりと聞こえる、濁りのない声だった。
俺の体は、不意打ちをくらって、ぞくりと震える。
その瞬間、俺はウワサの変人が、実はかなりの美形であることに気づいてしまった。
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