君にベタ惚れ

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 俺はテーブルの上の小さな水槽を指さした。母さんは引き出しやタンスを開けて、必要なものをてきぱきとそろえていく作業をしながら、ちらりとこっちを見る。 「あら、きれいな魚ね。じゃあ、アンタに頼むわ。どうする? 連れて帰るの?」 「そうするしかないんじゃねえ? 母さん、この魚何ていうか知ってる?」 「知らないわよ。金魚じゃないことは確かだろうけどね。青い金魚なんていないもんね。明日、友達に聞くか、ネットで調べてみなさいよ」 「え、俺、明日、学校行くのか?」 「そ。お通夜は六時から。アンタ、どうせお通夜の手伝いなんてしないでしょ? いても邪魔なだけだから、学校行って。それとも、おじいちゃんとずっと一緒にいたい?」  手伝いはともかく、普段あんまり会わない親戚のおじさんおばさんたちと一緒にずっといるのは気詰まりだよな……。 「……じゃあ、行ってくる」  俺は水槽の口にふたをするために、台所にラップと輪ゴムを取りに行った。  この小さな魚一匹が、俺のその後の運命を変えるとは、その時はちっとも思ってなかった。
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