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「名前さえ知らないのに、何で世話なんてする事になるんだ? 犬や猫じゃあるまいし。ベタは道端に捨てられちゃいないだろう」
ぼそぼそ声を必死で聞き取ろうと、俺はじっと津田を見つめながら神経を集中させる。
「……じいちゃんが飼ってたんだけど、昨日突然倒れて、そのまま……。最後に俺に、こいつの世話を頼んでいったから」
津田はまた眼鏡のブリッジを指で押し上げた。どうもそれは津田のクセらしかった。
「……そうか。それなら知らなくても当然か。おじいさんのことは、お悔やみ申し上げる」
ぼそぼそした声で、まるで大人のような挨拶をされて、俺は落ち着かない気分になる。
「そんな挨拶いいって。とにかく助かったよ。じいちゃんの遺言だから、面倒見るのはかまわないんだけど、なんにも分からないから、どうしようもなくて。ありがとな。後はネットとかでくわしい飼い方調べてみるよ」
俺は立ち上がってスマホをポケットに押し込むと、生物室を出ていこうとした。
「ちょっと待て」
津田がいきなり俺の腕を引いたので、ひっくり返りそうになる。
「わっ……! びっくりした!」
「ああ……その、悪かった」
何故か津田はとても困ったような顔をしていた。
「……エサはあるのか?」
どうやら、津田は俺がちゃんと世話できるのか心配らしい。
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