君にベタ惚れ

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「わからない。じいちゃんのうちから、とりあえずこいつだけ連れてきたから」 「魚は飢えに強いけど、絶食はかわいそうだ」 「そりゃそうだけど、俺、わからないし」  津田は黙って俺の腕を引いて、生物室の奥にある準備室に俺を引きずり込む。 「ベタなら……このエサで大丈夫だ」  津田はごたごたとした物が並んだラックの小箱から、小さなボトルを取り出した。 「これを三粒くらい、朝晩あげればいい」 「え? もらってもいいのか?」 「今このサイズの餌を食べる魚はいないから。ただ、ベタ専用ではないから、専用の餌を手に入れたら返してくれるとありがたい。餌は魚を取り扱っているようなペットショップに行けば、五百円もしないで買えると思う」 「ありがとう! すげえ助かる!」 「いや……」  津田はまた、くいっと眼鏡を押し上げる。 「ちなみに、どんな水槽に入ってた?」 「これくらいの、ちいさいやつ。割とうすっぺらくて、水槽って言うより花瓶みたいな感じ」  俺が手で作った大きさに、津田はうなずく。 「水槽に何か付属品は?」 「いや、水槽だけ」 「まあ、この時期ならヒーターもいらないだろうし……わかった。水槽は直射日光の当たらないところにおいて」 「うん」 「あ、最初に言っておくけど、それ、結構高い魚だから」     
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