君にベタ惚れ

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 少しでもじいちゃんの手をあっためてあげたくて、一生懸命その手を握り締める。一瞬、じいちゃんの冷たい手が、ピクリと動いた気がした。 「じいちゃん?」  あわてて見ると、じいちゃんの口元が、苦しそうにパクパク動いていた。 「じいちゃん、じいちゃん! 俺だよ、亮だよ!」  じいちゃんのまぶたが震えて、ほんの少しだけ目が開く。何か言いたげな様子に、俺はあわてて顔を寄せる。 「リョウ、さかな……頼む」  じいちゃんは、俺をみつめて必死にそう呟くと、また目を閉じてしまった。 「じいちゃん? じいちゃん?」  機械のアラーム音が響き渡る。俺はじいちゃんの手を握りながら、片手でナースコールのボタンを必死で探した。  じいちゃんは、あっけなく逝った。その後意識を取り戻すこともなく、俺はじいちゃんと言葉を交わした、最後の人間になってしまった。  母さんが医者や葬儀社と泣く間もなくやりとりをしているのを、俺はロビーにおかれた安っぽいビニールのソファに座って眺めていた。 「亮、ちょっと」  母さんに手招きされて近寄ると、鍵と千円札を何枚か渡された。 「鍵とか心配だから、あんた、おじいちゃんの部屋行って見て来て。」 「ん」  それから通帳やら何やらの場所や、コンビニで買ってくる物を言われ、おれはあわててそれをメモする。     
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