君にベタ惚れ

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 母さんの渡してくれた鍵を受け取ると、俺はバス停に向かった。  病院からじいちゃんの家までは、バスで二十分位だ。子供の頃、何度かじいちゃんが血圧の薬をもらうのについていったから、知っている。  古いマンションの一LDK。それがじいちゃんの部屋だ。  居間の電気をパチンとつけた。しばらく来ていなかったけど、子供の頃の記憶と変わらない部屋がそこにはあった。  テーブルの上には、新聞と眼鏡、テレビのリモコンと、小さなガラスのビンがあった。  殺風景過ぎるほど物が少なくて、きっちり片付いているのに、イスが一脚だけ横倒しにころがっている。それが、じいちゃんが運ばれていった時の慌ただしさを感じさせるたった一つのものだった。  それ以外は、何一つ変わらない。それなのに……。 「じいちゃん……」  その時になって、ようやくじいちゃんがこの部屋にもう戻ってこられないことを実感できた。 「じいちゃん、じいちゃん……」  おれは何度もそう繰り返しながら、子供のように泣いた。  どれくらいそうしていたかは分からない。気がつくと、窓の外はかなり暗くなっていた。涙をぬぐっていて、ふとあることを思い出す。 (そういえば、じいちゃん、魚がどうこうって言ってたよな)     
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