第1章

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 はんぺんをフードプロセッサーに掛けたものを卵と混ぜて、出汁と砂糖で味を整えて四角い形に焼き、あとは巻くだけというところだ。 「はい。巻き簾が無いのであの波々模様は付けられないんですけど……」 「十分凄いよ。楽しみ」 「ありがとうございます! それにしても、ふふっ、何だか黄色いおせちになっちゃいましたね」  寿々は思わず笑い声を溢しながら大きな平皿を見る。  今乗っている品は、おかかと和えた数の子、田作り、錦玉子、たたきごぼうだ。ここにもうすぐ、伊達巻と栗きんとんが仲間入りする。  寿々の指摘に、塩見も苦笑いを浮かべたものの、急に真面目な顔を取り繕って言う。 「大丈夫。カマボコと海老も入るから。……海老フライにするから赤くないけど」 「黄色は幸せの色って言いますし、お正月にはぴったりだと思いますよ」 「幸せの色か、良いな。黄色くないけど、来年はローストビーフとかも入れたいな」 「いいですね!」  塩見の提案に頷いた寿々は、巻き終わった伊達巻の端を切り落とし、塩見の口元に差し出す。  伊達巻を口に含んだ塩見は、ゆっくりと味わって深く頷いたあと、旨いと呟いた。  そして、お返しとばかりに手元の栗きんとんの中から一つ甘露煮を摘まみ上げて寿々の口に放り込む。 「わあ、甘くて美味しいです!」  点けっ放しにしていたテレビから、除夜の鐘が聞こえ始める。  二人の穏やかな夜は、ゆっくりと更けていった。 1
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